簡易ツールを作成し、治具として利用できると知った哲さん。 ダウンロード回路をつくる
今日も愛犬ロボの手綱を引いて、啓二さんの処へやって来た。
部屋の外まで、バニラのいい匂いがする。アイスクリームかな
と思いながら、ドアをあける。狂ったように金属の缶を振って
いる啓二さんがいた。
哲 :何をしているんだよ。 啓二:アイスクリームを作っているんだ。 哲 :そんなのコンビニで買えばいいだろう。 啓二:売り物は、いろいろと添加物が入っているので 駄目だ。自分で作らなきゃ。これは料理教室の ための試作でもあるんだ。案外、簡単なんだぜ。 哲 :試作するのは、電子回路だけかと思っていたら、 アイスクリームもかい。 啓二:できたぞ。ロボにもやろうなあ。 おい、食器棚から器とスプーンを出してくれ。 哲 :へい、へいと。こりゃ、うまい。 啓二:だろう。氷、塩、生クリーム、砂糖を利用してこの程度はできるんだ。 子供に教えてやれよ。 哲 :うん、明日の朝にでも作って食べさせるよ。 ところで、今日は何をするんだ。 啓二:ダウンロード用の回路を半田付けする。 哲 :難しいのか。 啓二:いや、そうでもないよ。少し時間がかかるが、一歩一歩 着実に半田付けしていけば、必ずできる。回路図は、これ。 哲 :複雑だなあ。これだけだと、ちょっとつらいよ。 啓二:そうか。ならば、実体配線図を作っておいたから この配線図を見ながら半田付けしてみてほしい。 哲 :こりゃ、いいや。回路図よりもわかりやすい。 啓二:それと、赤鉛筆を使えよ。 哲 :赤鉛筆って、何に使うんだ。 啓二:半田付けをやるごとに、該当する配線を赤でなぞっていくのさ。 全部なぞってしまったとき、半田付けが終了している。 哲 :ひとつ、ひとつ確認しながらやるのか。 非常にローテクだな。 啓二:ローテクかも知れないが、これが最も確実なんだ。 プログラムにバグがあるとき、1行1行コードを 見たり、ステップ動作で確認するだろう。あれと 同じだよ。 哲 :じゃあ、回路図はどうして必要なんだ。 啓二:回路図は、電子回路の動作を記述しているんだ。 このダウンロード回路ならば、信号の流れ、電圧 の状態などが回路技術者ならば、ほぼ理解できる。 配線図は、半田付けを効率よくするために必要なのさ。 哲 :目的が違うのか。 啓二:そういうこと。回路図が全体を見通すために必要で、配線図は 工程管理表かな。そういう具合に覚えておくと、わかりやすい。 さあ、半田付けだ。 (45分ほど、ごそごそ半田付けしていた。) 哲 :ふう、終わった。 啓二:どれどれ、導通チェッカーで接続確認するか。 こういうときに、オシロジイラズを利用するんだ。 哲 :電源オンで、燃えてしまうなんてことは、ないよなあ。 啓二:設計は完璧でも、半田付けがダメだと、そういうこともある。 あれ、ここ半田がついているようだけれど、電気的には接続 されていないぞ。コテで少し温めて。 哲 :これで、どうかな。 啓二:いいようだな。他には、駄目な半田付けはなかった。 次は、ケーブルの半田付け。 哲 :まだあるのか。疲れたよう。 啓二:来週に回すのか。実用品ができるのが、遅れるぞ。 哲 :やるよ。 (10分ほどで完成) できた。もう、今日は、半田付けなしだ。 啓二:導通チェッカーで接続をチェックっと。 どうやら、OKのようだ。 哲 :闇雲にチェッカーを当てているようにしか見えないぞ。 啓二:他人からみると、そう見えるかも知れないが、回路図が頭に 入っているから、必要な個所は、すべてチェックしてある。 哲 :ハードウエアをやる人間って、図面が頭の中にあるのか。 啓二:短期と長期があるけれど、図面は頭の中にある。小さい頃に 算盤を習っていて、暗算の訓練もしたんで、頭の中の図面で シミュレーションしたりもするけれどねえ。 哲 :へえ、そんな特殊な能力があるとは、知らなかった。 啓二:図面を頭の中に入れて、配線のチェックくらいは、大抵の ハード屋はできるよ。仕事で必要なんで、そういう能力が 自然と身につくだけだ。ダウンロードできるかどうかは、 やっておくから。今日は、これまでにしよう。