先週、制御基板のための部品を購入した哲さん。ロボの背中 スイッチ、LED、ブザーの知識
に部品が入った袋をくくりつけて、散歩と言い出かけてきた。
湿度が高く、気温も上がっていて、おまけに背中には部品の
袋。これには、ロボもまいって、唸り声をあげながら、しぶ
しぶやってきた。哲さんは、何故唸るのかわからず、これは
バウリンガルが必要かと考えているうちに、啓二さんの仕事
部屋に到着。
哲 :押忍!ロボが唸って、いつもよりも時間がかかってしまったよ。 バウリンガルが必要かな。 啓二:犬は、暑さに弱いんだよ。おまけに、袋を背負わされては、ロボ だって、文句の一つも言いたくなるさ。 哲 :なんだ、そんなことだったのか。 それにしても、よく犬の考えていることがわかるなあ。 啓二:傍目八目と言って、客観的に見れば、誰だって思いつくって。 おい、ロボを、この敷物の上に連れてこいよ。 哲 :何だ、その敷物。 啓二:この下には、水が循環しているのさ。熱帯魚の水槽に入れるポンプ を使って作ったんだ。ちょっとした装置を作るので、その実験用。 水を流して、冷房できないかやっているんだ。 哲 :あれ、ロボが腹ばいになったぞ。 啓二:暑いから、体を冷やしているのさ。猫なら、すぐにやってくるぞ。 今は、水だが、ぬるま湯を循環させることも考えている。 哲 :何でそんなことするんだよ。 啓二:頭寒足熱と言って、同じ室温ならば、足を暖めている方が、暖かく 感じるんだ。そして、足を冷やすと、同じ温度でも、寒く感じる。 それを活用した、省エネ装置さ。 哲 :ふーん。これがロボットとどう関係するんだ。 啓二:直接は関係しないが、78kの応用装置として作ってみたんだ。 ポンプで液体を循環させるために、ポンプが排出吸入する流体 の量を調整しているんだ。温度センサー、ポンプ、スイッチや ブザーを使っているのさ。要するに、センサーやアクチュエータ の動作を調べていると言ったところ。 哲 :いろいろやるなあ。さて、今日は、半田付けかな。 啓二:まあ、待て。半田付けする前に、部品についての知識を仕入れないとな。 哲 :そうか。まず、スイッチだな。 啓二:うん。スイッチは、タクト、スライド、トグルと数種類ある。 動作時の内容を設定するために、DIP(ディップ)スイッチ なんてのもある。で、どのスイッチにも、チャタリングがある。 哲 :チャタリングっていう言葉だけは聞いたことがある。 啓二:そうか。スイッチをONからOFF、OFFからONにするとき 10ms程度、ONとOFFの状態を繰り返して、その後に定常 状態であるOFFやONに落ち着く現象だ。バウンシングとも いうが。 哲 :そのチャタリングがどうかしたか。 啓二:10msというと、マイコンからみるととてつもない長い時間なんだよ。 その間、どちらに転ぶかわからないし、スイッチを押した回数を数える なんてプログラムを書いたら、カウントミスする。で、ソフトウエアか ハードウエアで除去しないとならない。 哲 :まあ、ハードウエアの仕事だな。 啓二:そうかな。これは、ハードでもソフトでも除去できるが、最近は ソフトの仕事なんだ。 哲 :何でだよ。 啓二:ハードだと、除去するために部品が必要になる。この部品をつけると コストがあがるし、故障の確率も高くなる。さらに、小さい基板だと 部品をつけるスペースがないこともある。それで、ソフトで除去する。 哲 :10msの間、スイッチの監視をしているのか。もったいない。 啓二:タイマー割込みを利用して、ポーリングでのスイッチ監視なんかしない。 割込みで、チャタリングしている間をスキップするのさ。 哲 :嵐が過ぎるのを待つってか。じゃ、LEDについての知識は何だ。 啓二:まず、LEDを光らせるには、1mAから20mAの電流を流す。 そして、LEDのアノードからカソードに向けて電流を流さないと ならない。そして、この方向に電流を流したときには、順方向電圧 というのが、発生する。この電圧が、青色LEDで3.2Vから 3.8V程度。他の色は、だいたい2Vと覚えておけばよい。 哲 :簡易電源を作ったときにも、そんな話をしていたなあ。 啓二:赤色LEDを使って、5V電源が接続されているかどうかの パイロットランプに使っただろう。 あの時は、(5V−2V)/10mAで抵抗を300Ωと計算した。 哲 :そういう知識があったから、即座に計算できたのか。 でも、あの時は470Ωを使ったぞ。今回購入してきた 抵抗値は、1kΩ。一体電流の値は、いくらにするつもりだ。 啓二:計算すればいいだろう。 新しい知識を仕入れても、使わないと知恵にはならんぞ。 その知識を使って、何かして、はじめて知恵になるんだ。 哲 :(5V−2V)/1kΩで3mAか。 これじゃ輝度が足りないんじゃないか。 啓二:大丈夫だよ。心配なら、LED極性チェッカーの抵抗値を 変えて調べてみな。疑問が湧いたら、自分で調べて確認する。 これが、技術者の基本のひとつだろうさ。 哲 :おっと、結構明るいなあ。確かに確認できる。 もう少し明るくしたいところだが、抵抗が1kΩしかないしなあ。 啓二:お前、人の話を聞いてなかったな。1kΩを半分の500Ω にして見ればよいだろう。並列に接続して。 哲 :おっと、そうだった。そうか、これが知識と知恵の違いか。 啓二:そんなんだから、子供に威厳を保てないし、奥さんに 軽く見られるんだぞ。 じゃあ、10mA程度流したいときには、どうする。 哲 :抵抗を300Ω程度にすればいいから、そうか3つ並列に してしまうといいんだ。 抵抗を、1袋も買う意味がわかったよ。 啓二:だろう。頭は生きているときに使えっての。 哲 :へーえ、ソフトばかり扱っていると、こんなことは考えないなあ。 啓二:ソフトだって同じだろう。結果が同じでも、実現する方法は複数 あるんだから。それと同じ。 哲 :あ、ロボが立ち上がって、敷物からよけた。 目で見てわかったけれど、こういうのを耳でわかるように しておくと便利だよな。 啓二:そういうときは、ブザーを利用するんだよ。昔、風呂ブザーって 作っただろう。 哲 :ああ、それで部品代を多めにもらって、余った金でアイス キャンディ食ったなあ。 啓二:そのときに、ブザーに電池をつけると鳴り出すのを使ったか。 哲 :うん、確か2本の線がお湯につかると、トランジスタスイッチで ブザーに電池がつながって、鳴ってたな。 啓二:じゃあ、そのブザーは発振器内蔵だ。ブザーには、発振器を持ってない 種類もあるんだ。今回買ってきたのは、どっちかな。どちらでも音階は 出せるけれど。 哲 :何、音階が出せるって。じゃあ、SoundBlasterみたいなことがマイコン でできるのか。 啓二:それは無理。SoundBlasterは、専用ICを利用したFM音源を利用する。 ブザーの場合は、せいぜいONとOFFを交互に繰り返す処理で対応する から無理だよ。 哲 :で、半田付けしないの。 啓二:ユニバーサル基板の場合は、部品の配置をきめる、レイアウトを先にする。 それから半田付けする。まずは、部品をゆったりと並べて、それでOKと なったら、半田付けする。レイアウトしてみなよ。 哲 :お前、いつも回路図だけを見ながらやっているじゃない。それじゃ駄目か。 啓二:それは、100枚以上も半田付けしてきた経験があるから。それでも実体 配線図のようなものは作っているんだ。お前のような初心者は、同じこと をやろうとしても無理だよ。それに、部品の配置をしっかり決めて、半田 付けした方がミスも少ないし、早くできるんだ。急がば、回れってね。 哲 :わかったよ。ここでやっていくよ。 啓二:よしよし。その間に、おやつを作っておく。